【南鳥島レアアース】専門家が「いいかげんにしろ」と激怒した理由──深海採掘の夢と現実

南鳥島沖レアアース専門家が諫言 社会問題

2025年2月1日、東京から1900キロ以上離れた南鳥島沖。

海洋研究開発機構の探査船「ちきゅう」が、水深5600メートルの深海底からレアアースを含む泥の吸い上げに成功した。

このニュースは瞬く間に広がり、高市首相は街頭演説でこう訴えた。

「日本はこれから、今の世代も次の世代もレアアースには困らない」

だが、長年レアメタル・レアアース研究に取り組んできた東京大学生産技術研究所の岡部徹教授(副学長)はこの発言に、はっきりこう言った。

「いいかげんにしろと思います」

なぜ専門家はそこまで怒ったのか。そして日本が本当に取るべき戦略とは何か。共同通信のインタビューをもとに整理する。


レアアースとは何か──「レア」なのに千年分ある?

レアアースとは、現代の工業製品に不可欠な17種類の元素の総称だ。

電気自動車のモーター、風力発電のタービン、ミサイルの誘導装置──あらゆる先端技術の核心にある素材である。

「レア(希少)」という名前から、絶対的に足りない資源だと思いがちだが、岡部教授はそれを否定する。

「陸上だけでもきちんと調査すれば、今の需要の千年分を超える埋蔵量があると思います」

問題は「存在するかどうか」ではなく、「どこで・いくらで採れるか」だ。


中国が91%を握る構造的支配

エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によると、2024年時点の埋蔵量シェアは以下の通りだ。

埋蔵量シェア
中国48%
ブラジル23%
インド8%
オーストラリア6%

しかし精錬(鉱石から取り出す工程)になると話は別だ。中国のシェアは91%。2位マレーシアの5%、米国の1%を圧倒する。

日本は輸入量の72%を中国に依存しており、中国が輸出を絞れば即座に打撃を受ける構造だ。


中国はなぜここまで強いのか──「環境コスト」という隠された武器

岡部教授が指摘する中国の強さの核心は、意外にも環境規制の緩さだ。

精錬では、鉱石を酸で溶かしてレアアースを分離する。その過程で有害な重金属を含む廃液や、放射性物質を含む廃棄物が大量に出る。

日本やアメリカはこの廃棄物処理に莫大なコストがかかる。だが中国では──。

「精錬所の近くに処分場があり、大きな池に廃棄物をどんどん捨てているのを目にしました。ほぼゼロコストで廃棄物が処分できます」(岡部教授)

採掘コスト、精錬コスト、廃棄物処理コストのすべてで中国に太刀打ちできない。これが現実だ。


南鳥島の深海採掘──「100倍~1000倍のコスト」でも驚かない

内閣府の試算では、南鳥島沖の深海底に1600万トン以上のレアアースが眠るとされる。

今回の採掘成功を受け、政府は2027年2月から1日あたり約350トンの泥を引き揚げる本格試験を計画。2028年3月までにコストと産業化の可能性を評価する予定だ。

岡部教授はこの基礎研究自体は「技術的に極めてチャレンジング」と認める。だが経済性については手厳しい。

「レアアースの生産コストが中国の100倍とか1000倍になっても驚きません。日本の資源セキュリティーの観点から見て、多額の投資をしても得はないと思います」

深海底のレアアース泥は放射性物質や有害金属がほとんど含まれないという利点がある。だが岡部教授はそれでも「勝負にならない」と言い切る。中国は地表近くの濃縮鉱石を廃棄物ほぼゼロコストで処理しているからだ。


「戦艦大和」に例えられた首相の楽観論

岡部教授が最も問題視したのは、コストや実用化の可能性をこれから検証する段階なのに、首相が「レアアースには困らない」と断言したことだ。

「太平洋戦争中、政府は『戦艦大和があるからアメリカに負けない』と国民の期待をあおった。当時はもう航空機が主流だったのにもかかわらず。それと似て、政府が誤解を招く情報を出すと、間違って安心してしまう人が出てくる」

冷静に考えれば、コスト評価も終わっていない技術を「解決策」と喧伝するのは、外交的にも「日本の資源政策はとんちんかんだ」と中国に足元を見られるリスクすらある。


日本が今すぐ取るべき現実的な戦略

では専門家が提言する正しい戦略は何か。岡部教授の答えは明快だ。

① 中国との関係を安定させる 安くて良質なレアアースが入ってくる状況を維持することが第一。敵対的な外交姿勢がサプライチェーンを直撃するリスクを忘れてはならない。

② 安いうちに大量備蓄する

「国家戦略として安価な時に買い、10年分の備蓄をすべきです。供給障害が起きて価格が何倍にも跳ね上がってから動くのは愚か。日本政府はその失敗を繰り返している」

③ 供給元を多角化する JOGMECはオーストラリア企業に出資し、マレーシアで有害物質処理後に日本へ運ぶルートを確保。信越化学工業はベトナムで精錬に取り組む。こうした取り組みへの政府支援を拡充すべきだ。

④ リサイクルと省レアアース技術への投資 現時点ではコスト面で実効性は限定的だが、長期的には不可欠な投資だ。日本が強みを持つ超電導モーター(レアアース使用量が少ない)の開発加速も重要だ。


まとめ──「深海採掘成功」は始まりであり、終わりではない

今回の「ちきゅう」による採掘成功は、技術的には間違いなく快挙だ。

だが、それは「解決策の発見」ではなく「可能性の入り口に立った」に過ぎない。

コスト評価は2028年まで続く。その結果次第では、多額の国家予算を投じる経済的合理性がないという結論になる可能性も十分ある。

岡部教授の言葉は厳しいが、的確だ。

「そんな単純な話ではない」

資源安全保障は、ロマンではなく地道な戦略の積み重ねで作られる。深海採掘を夢見る前に、今できることを着実にやる──それが日本に求められている現実だ。

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