ハンタウイルス感染者7人に|クルーズ船全員下船・感染経路・症状・日本のリスクを解説

スペイン領カナリア諸島テネリフェ島の港に停泊するハンタウイルス感染が発生したクルーズ船 国際情勢
最新情報 / 2026年5月12日 11:25 JST
読売新聞(ジュネーブ・ワシントン発) | 船越翔・中根圭一 記者
クルーズ船の乗船者が全員下船完了
ハンタウイルス感染者は計7人に確認
米保健福祉省「市民への感染リスクは非常に低い」
THIS STORY AT A GLANCE
  • 感染者累計:7人(WHO、5月11日発表)
  • スペイン領テネリフェ島で残留乗客約30人が下船完了、航空機で出国
  • 米国帰国の18人が医療施設で経過観察中、うち1人に陽性反応
  • スペイン人乗客にも陽性反応が確認
  • クルーズ船はオランダへ出航、17日到着予定
  • 米保健福祉省「市民への感染リスクは非常に低い」と公式表明
7 感染確認者(累計)
WHO発表 5/11
18 米国帰国後
医療観察者数
~150 クルーズ船
当初乗船者数
出来事の経緯
  • 5月10日 クルーズ船がスペイン領カナリア諸島・テネリフェ島に入港。同日中に約90人が各国政府手配の航空機で出国。
  • 5月11日 残留乗客約30人が下船完了、航空機でテネリフェ島を離れる(AFP通信報道)。
    WHOがフランス人乗客1人の感染を確認→累計7人に。
    米保健福祉省が会見で「市民への感染リスクは非常に低い」と説明。
  • 5月17日
    (予定)
    一部乗員が残るクルーズ船がオランダに到着予定(運航会社所在地)。
当局・国際機関の見解
「市民への感染リスクは非常に低い」 ― ブライアン・クリスティン次官補(米保健福祉省)5月11日 記者会見
スペイン保健当局はスペイン国籍の乗客からも陽性反応が確認されたと発表した。米国に帰国した18人は政府手配の航空機を利用しており、医療施設での経過観察が続いている。
ハンタウイルスとは
ハンタウイルスはハンタウイルス科オルソハンタウイルス属の1本鎖RNAウイルスの総称で、40種以上が報告されている。主にネズミなどの野生のげっ歯類を自然宿主とし、宿主動物自身は発症しないままウイルスを保有・排出し続ける。世界全体での年間感染件数は1万〜10万件と推定される。
ウイルスの2タイプ:症状と致死率の違い
旧世界型 腎症候性出血熱(HFRS)
主な流行地域ユーラシア大陸
(中国・北欧・東欧)
主症状発熱・腎機能障害・出血
致死率1〜15%
年間報告数数万〜数十万件
新世界型 ハンタウイルス肺症候群(HPS)
主な流行地域北米・中南米
主症状急性呼吸不全・肺水腫
致死率40〜50%
年間報告数150〜300件
感染経路の詳細:なぜ「げっ歯類」が危険なのか
ハンタウイルスはヒトからヒトへは基本的に感染しない(例外:南米のアンデスウイルス)。問題は野生のげっ歯類がウイルスをふん・尿・唾液を通じて環境中に排出し続けることにある。以下の3経路が主なリスクとなる。
  • 💨
    ① 粉じん吸入(最も多い) ふんや尿が乾燥して粉じん化したものを吸い込むことで感染。古い小屋・倉庫・物置の清掃中、農作業中、廃屋への立ち入りで起きやすい。クルーズ船内でもげっ歯類が侵入した場合、同様のリスクが生じる。
  • 🍽️
    ② 汚染食品・飲料水の摂取 げっ歯類のふんや尿で汚染された食品・水を口にすることで感染する。食品の管理が不十分な環境(屋外キャンプ、船倉など)での保管が特にリスクとなる。
  • 🐀
    ③ 咬傷・粘膜接触 ウイルス保有のげっ歯類に直接かまれた場合、または排泄物に触れた手で口・目・鼻などの粘膜に触れた場合に感染するリスクがある。
感染後の症状と進行(HPS型の場合)
潜伏期間は1〜5週間(通常約2週間)。初期症状が風邪・インフルエンザに酷似するため見逃されやすい。
1 初期(感染後〜約1週間):発熱・悪寒・筋肉痛・頭痛。嘔吐・下痢を伴うこともある。風邪と区別しにくい。
2 進行期:急速に咳と息切れが増悪。肺に液体がたまる肺水腫が進行し、呼吸困難が深刻化する。
3 重症期:呼吸不全。致死率はHPS型で40〜50%に達する。承認されたワクチン・特効薬はなく、集中治療(人工呼吸管理など)による支持療法が中心。
WHO推奨の予防策
  • 古い小屋・倉庫などの清掃時は、乾いたままほこりを掃き上げず、希釈した漂白剤で湿らせてから拭き取る
  • 清掃作業ではN95マスクと使い捨て手袋を着用する
  • 食品は蓋付き容器に入れ、げっ歯類が侵入できない環境で保管する
  • 流行地域では野生のげっ歯類との接触を極力避ける
  • 屋外作業や農作業後は石けんでの十分な手洗いを徹底する
日本国内の状況
🇯🇵 1984年以降、日本国内でのヒト感染例の報告はない(厚生労働省・国立健康危機管理研究機構)。1960〜70年代には大阪・梅田周辺でドブネズミ媒介の「梅田熱」(Seoulウイルス)が発生したが、衛生環境の改善と駆除対策の徹底により収束した。ただし海外旅行時、げっ歯類が多い地域や古い建物の清掃には引き続き注意が必要

げっ歯類(齧歯類、英:Rodentia)は、哺乳類の中で最も種数が多い目(もく)で、地球上の哺乳類種の約40%を占めます。

名前の由来:「齧る(かじる)」から。上下1対ずつの大きな門歯(前歯)が一生伸び続けるのが最大の特徴で、硬いものをかじって削ることで長さを保ちます。

主な仲間

  • ネズミ・ハツカネズミ・ドブネズミ(最もハンタウイルスと関係が深い)
  • リス・プレーリードッグ
  • ビーバー・ヌートリア
  • ハムスター・モルモット・チンチラ(ペット種)

ハンタウイルスとの関係でいうと、問題になるのは「野生種」です。ペットとして管理された環境で育ったハムスターやモルモットからの感染リスクは極めて低いとされています。ハンタウイルスを保有するのは主に野生のネズミ(ドブネズミ、シロアシネズミなど地域によって異なる種)で、これらは自分では発症せず、ウイルスのキャリアとして一生保有し続けます。

「なぜネズミが感染源になりやすいか」というと、人間の居住空間・食料貯蔵場所・船の中に侵入しやすく、そこでふんや尿を大量に残すためです。クルーズ船でも同じ構図です。

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